「仕事を辞めるべきか迷っている」
「転職するなら、どの会社を選べばいい?」
「これから何を目指せばいい?」
こういう悩みをChatGPTに相談してみたことがある人もいると思う。
ChatGPTに人生相談をすること自体が悪いわけではないと思う。頭の中を整理したり、選択肢を出してもらったり、決めたことを実際の行動に落としたりする時には便利だ。
ただ、自分の人生のゴールや判断基準までAIに決めてもらうのは危ない。
自分はこれまで、転職、旅行、引っ越し、買い物、学習方法などをAIに相談してきた。その中には、AIに判断を任せすぎて失敗した経験もあれば、AIを使って実際に行動できた経験もある。
行き先は自分で決めて、行き方をAIに具体化してもらう。
今日は自分の体験をベースに、この「人生相談」という観点でAIをどう使っていくのがいいかを言語化してみようと思う。
自分はかなりAIを使ってきた
自分は2023年、GPT-3.5の頃からChatGPTを仕事でほぼ毎日使っている。AIの社内導入担当や、AIスタートアップの役員も経験してきた。
エンジニアではないけれど、OCRを使った請求書処理のツールや、電話内容をAIで評価する仕組みを作ってきた。仕事だけでなく、転職や旅行、引っ越しなど、自分の生活でもAIを使っている。
実際にChatGPTへ人生相談して失敗した話
一番分かりやすく失敗したのは転職だった。
ある転職活動で、複数社からオファーをもらったことがある。その時、自分は次のような条件をAIに入れて比較していた。
- 年収
- 会社の成長性
- 仕事内容
- キャリアとしての市場価値
- 将来的な報酬
それ自体はよかったと思う。
問題は、自分でも何を重視したいのか分かっていないまま、「結局、自分はどの会社に行くのが一番いいと思う?」とAIに聞き、その回答を採用してしまったことだった。
AIは、それぞれの会社のメリットや懸念を整理して、条件から見てどこが有力なのかをかなりそれっぽく答えてくれる。
当時の自分は、スタートアップで働くことや、その役職で働くことが具体的にどういう責任や負荷を意味するのかも、そこまで理解できていなかった。それでも回答はもっともらしく見えたし、誰かに背中を押してほしいような状態だったので、その比較をかなり参考にして転職先を決めた。
結果として入社後に、「自分が本当に重視していたのは、年収や市場価値だけではなかった」と気づいた。
自分はもう少しクリエイティブな仕事がしたかったし、働く時間や場所についても裁量が欲しかった。どの程度の責任や負荷を引き受けたいのかも、本来は考えておく必要があった。
でも、その判断基準を自分自身が持っていなかった。
ここで重要なのは、AIの比較が必ずしも間違っていたわけではないということだと思う。
自分が入力した年収、成長性、市場価値などの条件で比較するなら、それなりに合理的な答えだったのかもしれない。
ただ、「その会社に入った自分が幸せか」という問いに答えるために必要な条件を、自分自身が分かっていなかった。
それなのに、最後の判断までAIに渡してしまった。
これはかなり明確な失敗だったと思う。
逆に、ChatGPTを使ってうまくいったこと
海外旅行では「行きたい」を具体化してもらった
初めて一人で韓国・ソウルに旅行した時は、AIを使ってかなりよかったと思っている。
この時は最初から、自分がどういう旅行をしたいのかをある程度決めていた。
予算はこのくらいにしたい。初めての海外なので、旅程を詰め込みすぎたくない。有名な観光地をできるだけたくさん回る旅行というより、韓国の屋台や街の雰囲気など、異国の文化を感じられる旅行にしたい。
こういう条件をAIに伝えた上で、行く場所や動き方を具体化してもらった。
するとAIが出してきた案に対しても、「これは自分がやりたいことと違う」「これは行きたい」と自分で判断できる。
そして自分にとって一番大きかったのは、航空券とホテルの予約までAIを使って進められたことだった。
これまでだったら、自分でいろいろ調べているうちによく分からなくなって、そのままやめていた可能性が高い。
でも今回は「こういう旅行がしたい」というところまでは自分で決めて、その先の面倒な具体化や手続きをAIにかなり任せた。
結果として、初めての一人海外旅行を実際に実行するところまで持っていけた。
この使い方はかなりよかった。
引っ越しでは交渉の進め方を考えてもらった
引っ越しの見積もりを取った時も似ている。
この時は3社から見積もりを取って、最初は税込7万円程度の金額が出ていた。
自分の中では、「税込5万円台前半になれば、予算的に妥当だ」というゴールを決めていた。
そこで、それぞれの業者から返ってきた情報をAIに入れて、「次にどの会社と交渉するか」「いくらを提示するか」「他社の見積もりをどのタイミングで出すか」といった具体的な進め方を考えさせた。
自分はAIから出てきた案を見ながら、次はこの会社にこう返す、次はこの見積もりを材料にするといった形で動いた。
最終的には税込5万円台まで下がった。
もちろん、AIが自動的に値段を下げたわけではない。
予算のゴールに向けて、手元にある情報をどう使って、どういう順番で行動するかをAIに考えさせた。
この役割分担がよかったのだと思う。
「ベストプラクティス」をそのまま使うのも危ない
これは人生相談に限った話ではない。仕事でも似たことがある。
自分はIT企業でPMをやっていて、「この案件ではどう進めるのがベストプラクティス?」「この交渉のベストプラクティスを教えて」とAIに聞くことがある。
この時は、自分が何を達成したいのか、どうなれば十分なのかを決めないまま、漠然と「いい進め方」を聞いている。
返ってくる回答を見ると、結構うまくいきそうに見える。でも、実際に実行しようとすると手が止まることがある。
自分の中で腹落ちしていなかったり、案件固有の事情にうまく当てはまらなかったり、そもそも自分がなぜその方法を採るのかを説明できなかったりする。
引っ越しでは、予算に照らして納得できる金額が決まっていたから、その金額に近づくためのやり方を聞けた。仕事で漠然とベストプラクティスを聞く時には、その前提が抜けている。
自分が転職で失敗したのも、これに近い。自分が何を重視したいのか分かっていないままAIに答えを求め、その回答を採用してしまった。
AIに任せていいこと・任せないこと
転職、旅行、引っ越しは、どれもAIに相談したことだ。それでも結果が分かれたのは、AIに渡した役割が違ったからだと思っている。

AIに任せていいこと
まだ考えがまとまっていない悩みや、友人には話しにくいことでも、AIなら書き始めやすい場合がある。自分の考えを言葉にして、次のような作業を手伝ってもらう。
- 頭の中の悩みや情報を整理する
- 選択肢を増やす
- メリット・デメリットを比較する
- 見落としている論点を出す
- 計画や手順を作る
- 抽象的な目標を、今日できる行動まで分解する
- 文章や返信文のたたき台を作る
AIに任せないほうがいいこと
- 自分が何を大切にするか決める
- 人生のゴールを決める
- 転職や退職などの重要な決断を代わりにする
- 結婚や人間関係の最終判断をする
- 「誰にとっても正しい答え」を決める
価値観の整理をAIと一緒に行うことはできる。ただ、最後に「これを達成したら自分は納得できるか」を判断するのは自分だ。
ChatGPTに人生相談するときに気をつけていること
もっともらしい回答が正しいとは限らない
ChatGPTは、知らないことについても自然な文章で答えることがある。
自分が詳しい分野なら、回答を見て「これは違う」「ここは使える」と判断できる。しかし、知らない分野では、その取捨選択自体ができない。
なので最近は、全然知らない分野についてAIと壁打ちする前に、Webで調べたり、本を読んだりして、自分でも最低限の判断ができる状態を作るようにしている。
特に仕事、医療、法律、お金などの重要なテーマでは、AIだけで判断せず、一次情報や専門家にも確認する必要がある。
個人情報や機密情報を入力しすぎない
相談内容には、個人情報や勤務先の機密情報をそのまま入力しない方がいい。
ChatGPTの個人向けサービスでは、設定から「Improve the model for everyone」をオフにすると、新しい会話をモデル改善に使わない設定にできる。また、一時チャットは履歴やメモリに保存されず、モデル改善にも使われないが、最大30日間保持される場合がある。
設定やサービスの仕様は変わる可能性があるので、利用前に公式のデータ設定も確認した方がいい。
AIの助言は人を動かすが、その結果までは分からない
ここまでの話は自分の体験をもとにしたものだけど、AIの助言に従って行動したと回答する人が多いことは、研究でも示されている。
英国の成人6,474人を対象とした研究では、AIとの20分間の会話と、2〜3週間後の追跡調査を行っている。健康・キャリア・人間関係について個人的な助言を受けたグループでは、追跡調査の回答者の75〜79%が「助言に従った」と答えた。
一方で、2〜3週間後の時点では、個人的な助言を受けたグループの幸福度が、同じAIと趣味や関心事について話したグループを上回って改善したとは確認されなかった。
この結果は、「AIに相談した人は幸せにならない」と証明したものではない。ただ、AIの回答が行動を促すことと、その行動が本人にとっていい結果になることは別だと考える材料にはなる。
ChatGPTに人生相談するときの使い方
自分が使う時は、だいたい次の順番で考えている。

1. 先に自分のゴールと条件を書く
いきなり「どうすればいい?」と聞く前に、次の項目を自分で書き出す。
- どうなりたいか
- 何を避けたいか
- 何を重視するか
- 使える時間や予算はどのくらいか
- いつまでに決める必要があるか
全部を正確に書けなくてもいい。判断の前提を言葉にするだけで、AIの回答を自分で評価しやすくなる。
価値観を整理したい時は、次のように聞いている。
○○を決める前に、自分が何を重視しているのか整理したい。過去に満足した経験や後悔した経験について質問し、価値観の候補を整理して。価値観を決めつけず、最後に自分が確認できる形でまとめて。
2. AIには、まず質問をしてもらう
最初から結論を求めるのではなく、判断材料が足りているかを確認する。
いま、○○について悩んでいる。結論を急がず、自分が何に困っているのか整理するための質問を一つずつして。質問の途中で、判断を押し付けないで。
このように頼むと、AIを回答者ではなく、整理を手伝う相手として使える。
3. 選択肢と不足している情報を出してもらう
条件が整理できたら、選択肢を比較する。
A案とB案で迷っている。他の選択肢も含めて、費用、時間、メリット、デメリット、リスク、将来への影響を表にして比較して。比較に足りない情報があれば先に指摘して。最終的な結論は自分で出す。
この段階では、「一番いい答え」を求めるより、自分が判断するための材料を求める。
4. 最後は自分で選び、次の行動を決める
AIの提案を読んだら、次の3点を自分に問い直す。
- この案は、自分のゴールに合っているか
- 自分が重視すると決めた条件を満たしているか
- この選択の結果を、自分で引き受けられるか
選んだ後は、具体的な行動までAIに分解してもらう。
最終的に○○を実現したい。現状は△△だ。ゴールまでに必要な行動を分解し、今日、30分以内に始められる最初の行動まで具体化して。足りない情報と、途中で確認すべき点も挙げて。
まとめ:AIに人生を決めてもらうのではなく、人生を考えるために使う
ChatGPTに人生相談すること自体が悪いわけではない。頭の中の整理、選択肢の追加、比較、手順化には役立つ。
一方で、転職のように、自分の判断基準が曖昧なまま最後の決断までAIに任せると、AIが示した条件を自分の基準として受け入れてしまうことがある。
自分の経験から、今のところ次の役割分担が一番使いやすいと感じている。
AIに任せていいのは、やり方・手段・具体化。
AIに任せないのは、ゴールの設定と判断基準。
AIに人生の正解を決めてもらうのではなく、自分で決めた方向へ進むための相談相手として使う。このくらいの距離感が、今のところ自分には合っている。
